想いを作品に托して
全国書教研連盟会長 村上美碩
梅雨明けの便りが待ち遠しいこの頃、7月は、夏の盛
りを迎え、日差しが一段と強くなる季節です。自然は緑
豊かに輝き、蝉の声に生気を感じ、清々しさとともに新
たな気持ちで満たされていきます。
この時期になりますと、体調を崩す方も多くなると思
いますが、暑さに負けず、心身を整えることが大切です。
書写書道においても、静寂の中で筆を運び、心を落ち着
かせるとき、夏の暑さも忘れさせてくれるひとときです。
筆の動きに集中し、一文字に心を込めることで、自分自
身と向き合うことができます。また、夏は自然の恵みを
享受し、感謝の気持ちを育む季節でもあります。日々の
生活の中で、身近な自然や人々とのつながりを大切にし、
心も体も豊かに過ごすことが、書写書道の修練にも良い
影響をもたらします。前向きな気持ちを持ち続けること
で、より良い作品づくりへとつながるのではないでしょ
うか。
さて、いよいよ第三十九回全国書写書道展覧会の作品
の締め切りが近づいております。(七月八日㈫締め切り)
日々の努力の成果、技能をぜひお披露目してください。
皆様の素晴らしい作品をお待ちしております。
この夏、皆さまが心静かに書と向き合い、自己表現の
喜びを深めていかれることを希っております。暑さに負
けず、健康に留意しながら、充実した日々をお過ごしく
ださい。
書研常任理事の藤根書道教室の藤根義信先生が五月二
十七日に永眠されました。謹んで生前のご厚誼に感謝し、
お知らせ申し上げます。
条幅作品の解説
阿 保 幽 谷
「 都 年 那 良 牟 」
○読み方―つねならむ
意味―人の一生というものは、いつも定まらないということ。
変体仮名で書いてみた。
○用紙―半切画仙紙
○書体―変体仮名
○毛筆―半紙を書く筆
○墨色―普通の濃さに少し水をつけてうすくしてみた。
学び方
・心構え―参考作品は、日比野五鳳氏の「いろは歌」の一部分である。この作品を
見て書いたので「臨書」にしようかと思ったが、五鳳氏のようにはいかず、私なり
の作品になってしまったので「書」とした。しかし、多分に五鳳氏の作品に近づけ
ている。
五鳳氏の作品のよさは、変化と調和である。太い、細いの変化、連綿と単体、つ
づけ方も変化に富んでいる。特に、疎密はすばらしい。別なことばでいうと、余白
の生かし方である。同じ線を並べない五鳳氏の考え方は大いに学ぶ必要がある。
平安時代の作品は、形にはまった固い作品が多い。五鳳氏の作品には明るさがあ
る。それは変化である。大胆な変化、墨色の変化は、書道を近代的なものにしてい
る。見ていてあきないのはこの人の作品である。
いざ書いてみるとなかなか書けない。しかし、五鳳氏の作品のすばらしさは、独
学だという。独学ですばらしい作品を切り開いていったということであるから、誰
にでもできる。ただ、五鳳氏は、岐阜から京都に移り、いつも賀茂川を散歩して、
川の流れを見ては作品を作っていったということであるから、動きに対して何か得
るものがあったのであろう。何を得たのか、そこを知りたいのだが、今もってわか
っていない。五鳳氏は亡くなっているから、これからも作品を見てとらえていきた
い。方丈記(鴨長明著)に、「水は流れてもとの水にあらず」とあるから、この辺
にポイントがありそうだ。
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