新年度スタート
全国書教研連盟会長 村上美碩
新しい出会いの四月。
令和七年度(二〇二五年)―さくらの開花と共にはじ
まりました。
少し書についてふれてみましょう。何時の時代も、明
治・大正・といった時代も、それぞれ代表と言われる書
の大家の流派が主流になっています。
昭和になり昭和九年(一九三四年)四月から文部省の
国定教科書習字も一新され、日本国中が鈴木翠軒(敬称
略)執筆によるもの一色に統一され、小学校一年から毛
筆で半紙に漢字四字書き、六字書きもありました。
例えば作品になると、あの淡墨で翠軒特有の流麗な表
現はみなさんも衆知のことでしょう。今もうけつがれて
います。
「翠軒にあらざれば書にあらず」とまで唱えられ、昭
和の一世を風びしたものです。飛ぶ鳥も落とす勢いで、
日展を鑑賞すれば、一堂が翠軒一色の淡墨の作品でうめ
つくされていました。
書研誌昨年十二月号で、細矢前会長の言々に少しふれ
てあります〜昭和三十三年四月文部省の指導要領が大き
く改められ小学校一年から硬筆、毛筆書写は小学校三年
から必修となり、国語科の「書き取り」のための毛筆書
写、文字の点画(接筆を含む)を正しく把握させるため
に、鉛筆よりも筆で書くことにより効果があり、半紙に
大字二字書きになりました。書研も文部科学省の指導要
領に準拠して、先生方に揮毫していただいております。
正しい文字は、字形も整い美しい読み易い文字と眼を
ひかれることでしょう。
新年度にあたり、令和七年度の抱負に向かい歩み出し
ましょう。
条幅作品の解説
阿 保 幽 谷
「鐘 聲 烟 外 寺、燈 火 樹 間 家」
○書体―行書
○文字数
10
字
○読み方―鐘声、烟外の寺、燈火 樹間の家
○意味―鐘の音が、もやの向こうの寺から聞かれ、ともしびが木の間の家からもれ光る。
○学び方
●心構え―鐘の音が遠くの方から聞こえてくる。その時は、あたりが暗くなり、どの
家でもあかりをつける。そのあかりが木の間からかすかに見えるといった風景を述べ
た詩である。
鐘の音も、ともしびもはっきりしないとっころに、一日の夕暮れがほのかに見える。
ちょっとさびしい情景である。そんな時、人間は何を考えるであろう。一日の仕事が
終った安心感と、何かさびしさを想像させる。いかにも一日の終りをつげるようだ。
そういう情景を思い出し乍らこの文字を書くとよい。
●全体のまとめ方
10
字を半切の画仙紙にまとめるためには、やはり2行に書くとよ
い。一行目は 7文字、二行目は3文字のため、二行目はあきすぎる。そこで、二行
目へ、この詩を作った「館柳湾詩句」ということばを書き、その下へ署名を入れた。
この時、本文より、詩を作った人のことばを少し小さく、署名は、さらに少し小さく
書く。しかも、本文と詩句と署名の間を少しあけるとよい。
墨つぎは、2か所で「鐘」と「寺」である。墨色は余り濃くない。
行の中心はそろえるとよい。
●文字の形―文字の形は、大小の変化をつける。そして、文字がつづいていくように
する。
●用筆法―線の折れるところは、すぐにはね返るようにすると筆力が出る。また、墨
をつけたところは太く、にじむように書き、かすれてきたら、改めて墨をつけ直すよ
うにする。長い線があったら、他は短くするようにするとバランスがよい。
(出典 実作する古典 江戸漢詩 同朋舎出版
36
頁)
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