春のきざし
全国書教研連盟会長 村上美碩
2月は、現実一年の中で寒さが最も厳しく、雪も多い
季節です。 しかし、暦の上では4日頃には「立春」を迎
え、春が始まります。
また2月は、バレンタインデーなどもありますが、「節
分」という行事もあります。
春の訪れを告げる節分は、古来より暮らしの中で大切
にされてきた節目の行事で、節分の日に、「豆まき」は
古くから全国的に行われているほか、その年の良い方角
に向かって太巻き寿司を食べる「恵方巻」も最近では全
国的に行われるようになりました。
ちなみに豆まきは、その昔、宮中で節分に行われてい
た「追儺 (ついな)」という鬼払いの風習が広まったも
のと言われています。
また、節分の豆を年の数(または年の数+1個)だけ
食べることで、その年の無病息災を願うということも良
く知られていますし、実際に豆まきに使われる大豆は、
栄養価も高いため、自分や周りの人の今年一年間の健康
を祈りながら、豆をまき、そして豆を食べるという節分
は、実益に適った行事と言えます。
このほか、節分は、福を招くために心の準備を整えて
おく時期とも言われ、単なる季節の切り替わりとなる時
期だけではなく、私たちの心にとっても新たな一歩を踏
み出すきっかけにもなります。
一方、書写書道もまた、一筆ごとに心を込めて、筆を
持つことで精神を整え、墨の香りや紙の感触を通じて、
自分自身と向き合う時間を作ります。文字が描き出す線
や形には、私たちの内なる心の動きがそのまま表れると
思います。その意味で、節分と書には共通するものがあ
るのではないでしょうか。それは、自分を見つめ直すと
いう点に他ならないと思います。
節分という文化の背景に触れながら、書を通じて心を
整え、新たな季節に向けた希望や目標につき進んで行き
たいものです。
2月は検定です。日頃の努力を発揮できる絶好の機会
です。2月が皆さまにとって新たな書への道そして、生
涯の夢の扉を開いていくことになるでしょう。
条幅作品の解説
阿 保 幽 谷
「愛 子 心 無 盡」
○読み方―子を愛する心は尽くるなし。
○通釈―親が子を愛す、その心は尽きることがない。
○出典―中国 清時代 蒋士銓
○書体―草書
○学び方
●心構え―親の生き甲斐とは、子が親より良くなってほしいと願う。昔から「愛する者は弱
い」といわれるように、こどものために尽くす心は限りがない。子供のためなら、なんでも
してあげたいと思う。その親の心をのべたものである。人間が弱くなった時は、愛する力が
強くなった時である。本当の人間の生き方を学び取りたい。そういう気持ちでこの文字を書
くとよい。
●全体のまとめ―「愛」と「無」でたっぷりと墨をつけ、大きく、太く書く。
したがって、墨つぎは、この二ヶ所で、あとはかすれていく。また、文字は大小の変化が
作品を生かす。但し、中心はそろえる。
●文字の書き方―「愛」は大きく、長く、そして太い。「子」は小さく、長く、「心」は小さ
く、横長と変化をつける。
●次に「無」で墨をつけ直し、太く、大きく、たての線は平行にならないように、変化をつ
ける。「無」の横の線は下から上へあがって書いたので、次の「盡」の長い横画は真ん中か
らあとは下へさげて変化をつけた。
●線の書き方(用字法)―太い線と細い線の変化、また、線の方向の変化をつけ、また、長
短の変化によって、余白のとり方にゆとりを持たせるとよい。
●墨色の変化―墨色の変化は、特に最近の書道には必要である。ここでは、「愛」と「無」
の二回墨をつけ、あとは、次第にかすれが出るように心掛けた。また、墨をついだあとの文
字は少しずつ小さくするのもよい。
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