■
■
TOP
⇒
先生からの言葉
先生からの言葉(
巻頭言
)
「日本文字」を伝えよう
全国書教研連盟会長 安 藤 隆 弘
夏休みは、暑い日が連日続く中、運動や学習に休む間 もありませんでした。今年も全国書写書道展覧会が九月 二十八日、二十九日にあります。多くの優秀な作品が集 まりました。皆様には感謝致します。数年前にもお話を しましたがよく聞かれるのでもう一度。○「川の筆順を 真ん中から書くという?」『大大菩薩峠』に出会ったか らであった。「お師匠様、川っていう字は、真ん中から 先に書くんですね、端(はし)から書いちゃいけないんで すね。」「そうです。真ん中から先にお書きなさい。」
「他生の巻」の寺子屋の場面で、お師匠様とは机龍之介 を仇とねらうお松である。江戸時代の寺子屋は、鑑札無 しで開業出来たので、いかがわしいお師匠様もあったは ずであるが、お松については次のような評判であった。
「相生町の御老女の家にある時、念を入れて字を習ひま したから、なかなか見事な筆跡です。…海蔵寺の東妙和 尚なども、お松の字はお家流から世尊寺流を本式に稽古 しているのですから、どこへ出しても笑はれるような字 ではありません。」書に関しては本格派である。芥川龍 之介や吉川英治の署名に、川を真ん中の画から先に書い ているのを見かけたが、それは毛筆による行書であった。 上の字の終わりからの勢いで次の「川」の中央の画に筆 が移ったものと了解していた。
江戸時代では行書体が基本となっていたお家流が専用 書体であり、入門期の手本を見ても平仮名のいろはの後 は漢字の行書体である。『大菩薩峠』の作者中里介山は 学校教師の資格を取り、明治時代の後半には小学校にも 勤務したことがある。未完ながら『大菩薩峠』は三〇年 近く書き続けた大作である。私はある時期から文学作品 の中の書道関係描写の資料を集め始めていたが、何時何 処でどのような状況で「他生の巻」の寺子屋の場面に出 会ったか記憶にはない。
条幅作品の解説
阿 保 幽 谷
○梅 潤 入 書
○読み方―梅潤書に入る。(書体は行書を使う。)
○意味―梅雨の湿気が書物にしみ込む。 梅雨の湿度が書物に沁み込んで困る。それだけ梅雨の湿度は書物にしみ込むことを困っ ているという時節である。
○心構え―書物を開いたら、心を楽しむようにしたい。
○全体のまとめ方―全部で四文字である。 文字の間をそろえて、文字の間隔が同じになるように折って書く。
○文字の大きさ―「梅」が大きく、「入」も大きくとって、「潤」と「書」同じ大きさに折 って書く。
墨つぎは「梅」で強く押さえ、「梅潤入書」とそろえるように一気に書く。「入」で かすれるが「書」でもっとかすれて書くようにする。又は「書」で改めて墨をつけ加え るようにしてもよい。全体を二度で書くようにすると全体のバランスがよい。 署名は改めて書く。
○「梅 潤 入 書」の書き方は「梅」は大きく、「入」も大きく書き、「潤」と「書」は 小さめに書くと大小のバランスがよい。中心はそろえて行書で書く。
○筆は普通の大きさより少し太めをつかう。
本課題は阿保直彦・片山智士「名跡墨場必携」木耳社 184頁を使った。
copyight (c) 2008 all rights reserved by shoken
designed by ingusto